|
|
|
| 編集長 |
: |
『アイルランドの薔薇』で衝撃的なデビューをなさったのが2年前ですが、小説はいつごろからお書きになっていたのですか。
|
| 石 持 |
: |
『アイルランドの薔薇』で光文社のカッパ・ノベルス新人発掘企画〈カッパ・ワン〉に応募したのが、本を出していただくきっかけでした。小説らしきものを書き始めたのは、高校生のころです。ちょうど小学校高学年のときに「横溝正史ブーム」があって、それでミステリーの面白さに目覚めてしまったんですね。高校に入るころには作品を読むだけではもの足りなくなって、自分でもオリジナルストーリーを考えるようになりました。
当時書いていたのは学園ものです。友達が集まるアパートがあって、そこで高校生が一晩ドンチャン騒ぎをする。しかし、翌朝目が覚めてみると友達のひとりが部屋で死んでいる。そんなストーリーでした。ドアも窓も閉まっている密室ですから、犯人は当然そこにいた人間でしかありえないんですが、それでは仲間うちから犯人が出てしまう。だから、なんとか部屋にいた全員が推理をはたらかせて、違う可能性を検証していく。そんなプロットを毎日考えては楽しんでいました。
なんだか、書いている内容は、今も高校生のころもあまり変わっていないですけれど(笑)。
|
| 編集長 |
: |
読者としては、どのようなミステリー作品がお好きですか。
|
| 石 持 |
: |
実は海外翻訳ものはあまり読んでなくて、国内ミステリーを中心に読んでいました。好みを聞かれたら、最近の日本人作家でいえば東野圭吾さんや、〈設定の鬼〉西澤保彦さんの諸作品でしょうか。
もちろん大がかりなトリックを用いた作品も大好きなのですが、どちらかといえば地味でも丁寧な作品が好きです。きちんと作りこまれた舞台の上で登場人物たちが自在に動いているような、そんな話が好きです。具体例を挙げれば東野圭吾さんの『眠りの森』や西澤保彦さんの『ストレート・チェイサー』でしょうか。どちらも派手さはないけれど、上質、という言葉がぴったりとあてはまります。
|
| 編集長 |
: |
読書はミステリー専門ですか。
|
| 石 持 |
: |
そういうわけではなく、サイエンス・フィクションも好きで読んでいました。でも、自分でSFを書けるかといえば、ダメです。科学的な知識が膨大にないと、面白いSFは書けないと思います。だから、もっぱら読者として楽しんでいます。
作家名を挙げれば、アーサー・C・クラークのSFが大好きです。彼の『2001年宇宙の旅』は映画もすごくいいですよね。また、原作者は別ですが、ロン・ハワード監督の『アポロ13』も好きです。私の小説のテーマにも重なるのですが、誰も悪くないのに起きてしまった事件に対して、知恵と工夫の限りを尽くしてなんとか解決の道を探していく。そして、最後はハッピーエンドで終わる。そういう話が好きなんです。
|
| 編集長 |
: |
ミステリーファンはもちろんですが、一般の小説ファンが読んでも引き込まれるのが石持作品の魅力だと思います。ご自身では一般の小説もよくお読みになりますか。
|
| 石 持 |
: |
ジャンルにこだわらず、読書全般が好きです。今の時代はいろいろな娯楽がありますが、私はやはり読書がいちばんの娯楽というか、ある世界に没入して「気持ちいい時間」を過ごせるメディアだと思うんです。なにしろ与えられる情報は活字だけですから、想像力をフルにはたらかせて作品と向かい合うことができる。それこそが読書の楽しみですよね。
好きな作家は数え挙げたらキリがないですけど、村上春樹さんのお書きになる短編、たとえば『パン屋再襲撃』や『納屋を焼く』などにはとても惹かれるものがあります。もちろん長編もすぐれた作品がいっぱいあるんですけど、あえて余分な説明がされないまま終わる短編の「切れ味」は抜群だと思います。
|
| 編集長 |
: |
登場人物のクールで、どこかユーモアのあるところは石持作品と村上さんの作品は似ているように思えますね。
|
| 石 持 |
: |
うーん、そういっていただけると私としては大変に光栄ですけど、どうでしょうか。
村上さんの作品に登場する人物は、あまり「あたふた」しない。かといって行動原理が合理性ばかりかというと、そうでもない。そのバランスが読んでいて心地いいですね。そして、読者としていちばん思うのは「主人公に視点を合わせてもブレる不安がないことです」。あるときは主人公が15歳の少年だったりするのに、大人が彼の目線に合わせていても不安にならない、苛立ちを覚えない。
読者と作品の間にはそうした共感がないと、やっぱり作品にのめりこんでいくことはできないと思います。
|
| 編集長 |
: |
読者と作品を結ぶ「共感」をお話しになりましたが、石持さんご自身は、どのようなことに気を配って創作なさいますか。
|
| 石 持 |
: |
舞台設定に最も気を遣います。小説ですから、誰も知らない架空の場所を設定することはいくらでもできるのですが、それでは舞台を想像することにエネルギーを使いすぎて、読者の方がついて来てくれない。かといってあまりに日常的でも、夢のある話は生まれてこない。できれば読者がよく知っていて、しかし毎日行くところではない場所。そんな舞台設定が浮かんだら、骨格が固まっていきます。
長編二作目の『月の扉』は飛行機の機内が舞台、今回の『水の迷宮』は水族館。どちらも毎日飛行機に乗ったり、水族館に行く人はあまりいません。誰もが知っていて当然の場所なんだけど、日常的に行くところではない。一歩だけ日常から片足を踏み出している場所です。小説を通じて、そうした場所に深く入り込み、なにかしら楽しんで帰ってきてもらえれば……そんな小説が書ければと常々思っています。
『水の迷宮』はご自分で行かれたことのある水族館をイメージして読んでいただければうれしいです。知っている水族館の様子をあれこれと思い浮かべながら読み始めて、読み進むうちにいつしか見たことも想像したこともないような水族館に迷い込んでいただければ、作者としてこれほどうれしいことはありません。そして、どんなかたちでもいいのですが「面白い時間を過ごすことができた!」と、この水族館を後にしていただければ、最高ですね。
|